6月の終わり、体調が少し上向いてきたように見えた父。
お粥が出されるようになって、食べたいと思うものを少量ずつ食べてみて良しと許可が出た。
母がなに食べたいかと尋ねると「ビスケット」と即答したという。

翌日、病室へ行き「ビスケット食べたって?美味しかった?」と聞くと
「うん美味しかったぁ・・」と、その言葉よりなにより目尻のしわを深くしてみせた笑顔が、どれほどの美味しさだったかを語っていた。咀嚼し味わい飲み込むことのシアワセが父の顔にあった。

ふた月、絶飲食で過ごした後の一枚のマリービスケット。
父だけが知る美味。


それが父が食べた最後のもの。
その後またすぐに絶飲食になり、いまはもうなにかを咀嚼する力は残っていない。
3ヶ月飲まず食わずでも、人は生かされてしまうものなのだ。

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